英国細胞検査士として働くために・・・・
田渕 未里 (英国在住)
2004年1月に私が取得しましたnhscsp certificate in cervical cytology(英国細胞検査士資格)の取得方法、特に海外からこの資格取得を目指すときの条件及び、システムについて簡単にご報告いたします。
【概略】
英国において医療従事者として勤務するには、nhs(national health service)の定める各専門資格が必要です。nhsとは、国の定める国家健康保険機構で、多くの大学病院・クリニックはnhs管轄下にあり、このような関連医療機関においては、国民保険が適用され、よほど大きな手術などでない限りは、医療費を払わずに治療をうけることができます。これは、細胞検査士(cytoscreener)のポジションに関しても国際資格(iac)のみでは不十分で、nhscsp certificate in cervical cytologyのライセンス取得が義務付けられています。ヨーロッパ・アメリカなど多くの国では、cytoscreenerの資格取得にあたり、日本のように臨床検査技師の資格がある必要はなく、つまり、両方の資格をもつ者、cytoscreenerの資格だけをもつ者が業務を担っています。(ただ、多くは、両方を保持していますが・・・)
また、病理全般の仕事を担う資格はbms(biomedical scientist)であり、日本の臨床検査技師に一番近い資格と考えられます。しかし、bmsはバイオ・メディカルの技術者として専門性が高いものの、日本の臨床検査技師のように、生理系検査を行うことはしません。私も現在、bmsの登録をしようとしている段階ですが、私のように英国外で教育を受けている場合には、教育内容・資格の許容範囲・英語力の証明(toeic810点以上)などの英訳された公式文書を提出し、それがbmsに同等もしくは十分だと判断されて初めて英国内でbmsとして業務に就くことができるようです。不十分な場合には、その不足分野に対して、英国内でトレーニングまたは教育を受ける必要があります。事実、bmsを取得している方が、給与も高く、業務内容も広くなります。
【nhscsp certificate in cervical cytology】
上述しましたように、医学のバックグラウンドがない場合でも、取得を目指すことは可能ですが、その場合には特定の教育機関(病院やトレーニングセンター)で一定期間以上のコースを受講し、さらに研修生としてのポストを確保し、そこでojt(on the job training: 実務研修)として2年程の実践トレーニングをうける必要があります。また、医療に携わっていても、cytologyに密接していない場合なども同様、コースを受講し、病院が出すcytoscreener trainee(研修生)のポストにアプライし、雇用者のサポートによって取得を目指すことになります。これらの場合には、nhsの指定するcytology log book(トレーニング用ワークブック)での学習、終了を求められるとのことです。資格の名目は、cervical cytologyですが、実際の現場ではnon-gynecology(婦人科以外の検体)の診断をする機会ももちろんあります。医療機関やトレーニングセンターでは、ワークショップや講義を頻繁に行っており、専門性を高めたいと思う人は、これらに積極的に参加し勉強することが要求されます。
今回は、overseas candidate (海外からの受験者)に焦点を当てお話致します。
【受験資格及び条件】
以下の事項が証明できる文書
? 少なくとも5,000症例(診断対象となる症例、教材でないこと)の診断経験があること
? 細胞診断を担う病院・ラボ等で2年以上の就業経験があること
? 勤務した医療機関が取り扱う年間症例数、そのうち自分が担当になった症例数
? 大学またはその他の関連する全ての教育内容の詳細及び、免許・資格の詳細とコピー
? 前雇用者の個人宛て連絡先(電話・住所・fax)及び、自分の能力を証明できる方からの推薦書
を英文にてnhscsp(national health service cervical screening program)の本部に申請し、そこで受験に値すると認められれば、基本的には特別なコースなどを受講しなくても、受験することができます。
但し、pre-exam course(直前コース)の受講を強く勧められます。これは、受験者全てに対してですが・・・。
私の場合は、受験日の前に受講できるpre-exam course が遠方にしかなく、自主学習で試験に臨もうとしていたのですが、幸運にも以前よりアプライしていたsouthampton general hospital が試験対策や研修を個人的に行ってくれると申し出てくれました。後で述べますが、特に筆記に関しては、英国でのリスクマネージメントやqcなどについても出題されますし、回答方法も日本とは異なるため、なんらかの方法で模擬テストなどを受けるほうがよいでしょう。
[受験手続]
この申請が認められたら、試験場(日程)の確保をします。試験は年に5・6回程行われますが、英国のどこか1つの機関が持ち回りで実施し、定員は多くても各日20人位です。そのため、居住地から訪問可能な場所で、都合のよい日程で行われるとは限りません。また、pre-exam courseも実施場所が様々です。
[受験料]
特定の受験書と伴に、パーソナルチェック(個人小切手)で65ポンド(およそ12000円)を支払います。英国は、チェック(小切手)での金銭授受が主流ですので、日常生活でも使える状態にしておくのがよいでしょう。
[試験内容]
スクリーニング(screening test):12問×10分(120分)
同定(interpretive test):15問×2分(30分)
筆記(written paper):20問 (60分)
スクリーニングテスト
日本のテストと同様、各スライド(44×22mm)を10分間で回します。但し、合格ラインは、24問中18問の正答(75%)で、異形成に関しては、一つの見落としも許されません。異形成の出現しているものに対し、診断をつけなかった場合は、それだけで、試験は不合格となります。各症例に対し、a:クラス分類(一部組織型を含む)の選択肢、b:感染症に関する選択肢、c:追記項目の3つのカテゴリーについて回答し、さらに深くまで組織型を言える場合などはcに記載します(このコメントがプラスαを与えることもあります)。
日本のテストでは、1症例5分ですから、時間的には十分かと思われます。しかし、なれない環境?で、思ったよりも時間はあっという間に感じられました。
同定
これも日本と同様、描かれた円の中だけ(時間が許せば、他の部分を見てもよい)を見て診断します。回答は、診断名と特に異形成に関しては、分化までを記入する必要があります。また、1つの円の中に、複数が存在すること(感染症とコンタミなど)もあり、両方の回答がないと減点になります。ここに出される症例は、正常細胞から混入物まで様々です。(border line病変はありません)合格には、67%(20問以上)の正答が必要です。
筆記
筆記テストは、完全な記述式です。20問を制限時間内に回答します。問題の形式としては、「・・・・について述べよ/描写せよ」と「・・・・について列挙せよ/リストアップせよ」などのパターンがあり、前者については、文章として回答する必要があり、後者については、箇条書きで回答するとされています。私も一番不安だったのがこの筆記試験でした。外国人にとっては、書くスピードなど時間配分を考え望む必要があるかもしれません。
内容は、細胞所見・婦人科領域にかかわる術式名・見分け方・qc・英国での細胞診断の意義・フォローの仕方など様々です。英国で使用される略語についての出題などもあります。そのため、nhsが出版する関連書などを用いて勉強することが有効と思われます。
(私の経験から言えば、多少のスペルミスや言い回しの間違えは大目に見てくれていると思いますが、質問に明確にわかりやすい言い回しか否かについてはかなり重要視されているとのことです。)一つ良い点は、表や図を用いて説明することも許されていることです。合格ラインは、50%です。
【再受験について】
もし、試験に不合格になってしまっても、2回までは続けて受講することが可能です。しかし、3回目をうける必要が出た場合は、その試験の前に再度、トレーニングのコースを受講しなおし、受験に十分か否かを判定される必要があります。
【ポジションの分類】
bmsは、traineebms・bms1〜4としてグレード分けされ、cytoscreenerは、trainee cytoscreener・cytoscreenerに主にタイトルがつけられています。(ただseniorbms,senior cytoscreenerという表記もしばしば見受けられます。)これらは経験(勤務年数なども含め)に応じて与えられるタイトルです。この点に関しては、現在、情報不足ではっきりしたことを申し上げられませんが、いずれにせよ、全ての求人広告には、どのポストの人材を求めているかがはっきりと表記されます。また、nhsでは各タイトルのポジションに対する基本給(スタンダード)を定めているため、良くも悪くも、その標準給与から逸脱することはほとんどありません。このような給与とポジションに関するシステムは、他の医療従事者・大学での研究者(research fellowや research assistantなど)に対しても同様のものがあります。(traineebms.bms1.2.3.senior と昇級します)
以上、英国資格取得について申し上げましたが、実技テストに関しては、日本の試験の方が困難かと思われます。しかし、婦人科領域のみとはいえ、筆記については、英語ということ、記述式であることなど、事前に準備し、テスト形式に慣れておくことが合格へのポイントといえるでしょう。
2004.05.07