高山 須実子 千葉県内登録衛生検査所非常勤

 

 
 プラス 1??

 千葉県某所の登録衛生検査所で働く非常勤CTです。
 双子の妊娠をきっかけにネットにはまり、’98年9月より「お庭のこっこ」という、細胞診について一般向けに解説するホームページ(HP)を開設、現在に至ります。
 開設以来、それまでは考えることも無かった、受診者から見た細胞診、受診者から見た癌検診についてを考えるようになりました。
 ぜひ皆様の御意見もお聞かせ下さい。

 

 ラボの非常勤CTである私には、生身の受診者との直接的な接触というのは全くありません。
婦人科検診を中心とした検体を見て結果を記入する、という毎日の仕事の中で、私が受診者について知っているのは、問診の答えや臨床所見など紙に書いてある事だけです。

 私自身は病院勤務の経験が無くラボしか知らないので、臨床に密着した細胞診という物に憧れに似た感情を抱いていますが、実際のところ、受診者の体に触れ細胞を採取するのは医師の仕事である以上、日常的に受診者自身と直に話しをする機会を持っているCTというのはそう多くはない、、、少なくとも多数派では無いと思っているのですが、どうでしょうか?
(以前、患者さんに細胞の画像を見せて説明しています、というCTの方のお話しを伺ったことがありますが、こういう施設は増えているのでしょうか?うちはやって
いるという方のお話しや体験を、ぜひお寄せ頂きたいと思います。

「おや、この人は珍名さんだわね。」「あら、私と同じ誕生日♪」「出産6回!すごー」「ふむふむ、炎症あり、、、?あぁ出てる出てる。」「前回iiia?どれどれ。」「円錐切除後1年かぁ。ふーむ。」・・・などなど。

 問診を読んで、所見を見て、そして顕微鏡に向かうこと数分。
たいていの場合、class i か ii のところに○をつけて、必要な分のコメントをちょこっと書いて、それでおしまい。
次の検体に移ります。
私とその人との、つかの間の接点はこれで全て、もう思い出すこともありません。
きちんと見て、きちんとした結果を出すこと、それが私の仕事だし、それさえ出来ていれば充分だ、とも思います。

だから、「お庭のこっこ」を開いて、一般の読者=受診者から直にメールをもらうようになって

「結果を聞きに行ってみたら先生に『プラス1だから問題無しです』と言われて、な
んのことかと思って調べてみたら『クラス1』の聞き間違いだったんですね。」

といった内容のメールを(それも複数!)もらうまでは、クラスをプラスと勘違いしている人が世の中にいようとは思ってもいませんでした。
他にも「Iって言われて本を調べたら、初期癌のこともI、って書いてあって不安になってしまいました。」(進行期分類とごちゃごちゃにしちゃってるのね)とか、「細胞診レベル1と言われたのですけど、どういう意味なんでしょうか?」(先生の言うこと、ホントにちゃんと聞いてた?)とか。

 自分のつけたclass i だの iiだのが、そのままの言葉で受診者に知らされていることに今まで特に疑問を感じたことなど無く、ましてやそれを受診者がどう受け止めているかなど、ほとんど考えたことが無かったのですが、うーん、これはこのまま放っておいていいんだろうか?と、思うようになりました。

 ここで私が問題にするのは、クラス分類そのものの是非についてではありません。
もっと分かりやすい分類法をとか、もっと臨床に即した評価の付け方をとか、そういうことは私が考えてどうこうなるものじゃないし、そういう疑問を持ったわけではないのです。
もちろん、CTと指導医の関係についてや、どこまでが医療行為でどこまでが違って、CTにできる範囲はどこまでなのか、、、そんなことを問うつもりもさらさらありません。

 問題なのは、あなたに癌があるかどうかを検査するのは「細胞診という検査」で、その、細胞診では主にクラス分類という方法で「あなたの癌検診の結果を数字で評価する」んですよ、ということを結果をもらった「受診者本人が知らない」でいることが結構あるのだ、ということ。
ちょっとまわりくどい言い方になってしまいましたが、とどのつまり、世の中の人は細胞診についてなーんにも知らない、ということが問題じゃないかと思うのです。

 「そんなの、臨床の医者がきちんと説明すべきことじゃないか。」とか「細胞検査士の仕事じゃないよ。」とか、そういう声が聞こえてきそうですが、けれど、ホントにそうでしょうか?

 細胞診で癌細胞の有無を調べることは、私たち細胞検査士の仕事です。
けれどインターネットといった誰もが使える便利なツールが出来たのはつい最近のことで、これまで私達の仕事を効果的に世間に知らせる手段はほとんどなく、先人達の努力にも関わらず、世の中一般には私達の仕事がどういうもので、いかに癌の検査に必要不可欠なものであるか、知られていないのが現状です。

 検査の仕事というのは、地味で目立たない縁の下の力持ち的なものであり、それを達自身が美徳とも誇りとも感じているのは確かです。というか、少なくとも私はそうです。(^_^)

 けれど、インフォームドコンセントの必要性が盛んに叫ばれ、これからどんどん「者さん中心の医療」「患者さん+医療チーム vs がん」という考え方が進んで行くことは確実で、その中にあって、細胞検査士が自らの役割をもっときちんとアピールして医療チームの立派な一員であることを知ってもらうことは、私達自身の為にも必要だし、また、必要とされていると思います。
細胞診とはどういうもので、そのために細胞検査士はどういう役割を果たしているのか、、、ひとりでも多くの方に知ってもらうことは、私達自身の地位の向上と、同時によりよい医療にも繋がるのではないでしょうか。

 インターネットは、患者(または受診者)自らが情報を集め同時に情報を発信できるツールとして、これからいっそうインフォームドコンセントや、セカンドオピニオンという考え方を加速していくと思います。
その流れの中にあって、細胞検査士として何をしていけばいいのか、考えなければならない時が来ているのではないかと感じています。


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